Example of engine screening by ECS
こんばんは、専務の藤井です。
昨日、ECS(Engine Control System)のデータセットについての記事を投稿しましたが、エンジン駆動のモニタリングデータの中で、ちょうど良いものがあったのでご紹介いたします。
制御工学の基礎知識がないと判りにくいかも知れませんが、どうぞご了承ください。
さて写真は、三菱ふそうの4M50エンジンをATU(Automatic Test Unit)を使用して同一パターン運転した際のデータですが、同じ個体のエンジンについて燃料噴射系(FIE:Fuel Injection Equipment、サプライポンプ・インジェクターなど)を、
A:中古のまま駆動した場合のデータ
B:新品のサプライポンプと洗浄済みインジェクターに交換して駆動した場合のデータ
となっています。
これにおいて、Aのデータでは目標噴射圧(青線)に対して実噴射圧(赤線)が激しくハンチングしており、これによる噴射量の変動やサプライポンプ駆動トルクなどフリクションの変動により、エンジン回転(黄緑線)もスムースではない状態であることが判ります。
これが実車で発生すると、アイドリングの振動やレスポンスの悪化などの不調として現れます。
対してBのデータではFIEが正常に動作しているため、噴射圧のハンチングもなく、回転もスムースに変化していることが判ります。
ここで昨日の内容から、このECSでは実車よりもFIEに対して厳しい(余裕のない)制御をおこなうデータセットが書き込まれているので、Bのエンジンは実車においても問題を発生する可能性は極めて低いと考えられます。
次に、この違いを簡単に考察するため、写真右にECSによる制御システムの概要と、このデータにおけるボード線図のイメージを示しています。
まず制御システムにおいて、ECSはA,B共に同じデータセットで駆動されているため、同じ伝達関数であると考えられます。また、物理値(圧力)を電気信号(電圧)に変換するセンサー類においては、このような低周波での劣化は考えにくいので、これも同じ伝達関数であると考えられます。
よってA,Bの差は、FIEのプラントの違いによって発生しているものと考えられます。
ここで、Aで使用した中古ポンプでは、吸入調量弁(SCV:Suction Control Valve)の動作不良(渋りなど)で、位相遅れが増大していることが考えられます。
また、同じエンジンで同じ回転を達成するための噴射量(供給エネルギー)は同じであるため、インジェクターの噴射量低下により、AではBよりも長い開弁時間を要することが考えられ、これによりインジェクターバックリーク量は増大します。
したがって、SCVの送油量はA>Bとなりますが、このエンジンのSCVの特性は、送油量が多いほど駆動電流に対する送油量変化の割合が大きくなるため、ゲインは増大する方向に変化しているものと考えられます。
したがって、ボード線図で示したような変化が発生していると考えられ、結果としてAのゲイン余裕はBより小さくなるため、このようなハンチングが発生したものと考えられます。
以上が簡単な考察ですが、単にエンジンを始動するためであれば、オープンコントロールで燃料噴射やSCV駆動をおこなえばいいのですが、それではこういった「モノによる動作の違い」をつかまえることは不可能であり、これを可能にすることもECSの長所ではないかと考えています。