現場が支え、解析が生きるレベリングインジェクター
『現場が支え、解析が生きるレベリングインジェクター』
こんにちは。専務の藤井です。
先週のECS納品の時は、豪雨やら暴風やらで大変でしたが、納品自体はうまく行き、しかも梅雨明けで、なんだかいろいろスッキリしています。
そんな中、帰りの新幹線で昔作った資料の整理をしていたら、レベリングインジェクターについて、以前別のSNSで技術解説したコラムが出てきました。
ということで、考えてみればFBではろくすっぽ技術的な解説をしていなかったので、ここいらでちょっと書いてみます。
レベリングインジェクターに関する少し前の記事ですが、
http://www.irs-japan.com/?p=3801
のように、弊社では、オープンフローとハーフフローの両方を考慮してレベリングします。
これは、ガソリンPFIにおいて、通電時間vs噴射量で表されるインジェクター特性が、原理的にある切片をもった直線(y=ax+b)で近似できることを踏まえ、2ポイントを抑えることで、切片である無効噴射期間も抑えることができるという思想に基づいています。
ここで、1ポイントのデータだけなら、単に噴射量データをエクセルとかでソートすればいいのですが、2ポイント以上となると、ちょっとややこしくなります。
この概念を示したのが、この画像です。
つまり、例えばマゼンダのデータ群のように、Duty=100%(オープンフロー)のデータにだけ着目してソートしても、Duty=50%(ハーフフロー)のデータがばらついていたり、黄色のデータ群のように、その逆だったりという事象がまま発生するため、どちらの噴射量レベルでも揃っているグリーンのようなデータ群を抽出する(=全域で噴射量を揃える)には、それなりのデータ解析が必要になるということです。
よくある例で言えば、4本のインジェクターセットを、80本のベースインジェクターから抽出する場合、組み合わせは80C4=1,581,580通りとなり、テスタロッサなどの12気筒ともなると、60本のベースインジェクターを使用したとしても、60C12=1,399,358,844,975通りという、天文学的な組み合わせ数になります。
これを鉛筆なめなめ手計算でやるのは大変なので、弊社では、クラスター分析をベースとしたメタヒューリスティクスを自社開発し、その数値解析によりベストな組み合わせを抽出します。
ちなみに、いまのところ要望は無いですが、対象とするデータポイントは2個に限らず255ポイントまで対応しているのですが、これは、ユークリッド距離とマハラノビス距離を組み合わせた独特の手法で、真面目に書くと論文になるのでここではやめときます。
さらにちなみに、現在の最適化アルゴリズムは、バージョン9.02で、この数年間でだいぶ進化しています。
いずれにせよ、上記のようにものすごい数の組み合わせから、たった一つのベストな組み合わせを抽出したものがレベリングインジェクターです。
ところで、こういった解析において得てして見落としがちなのですが、一生懸命数値解析をしても、その元となる測定データの確からしさが危ういと意味がありません。
なので、実は上記の解析はあくまで弊社のユニークな点でしかなく、最も重要なのは、こういった解析をするに足るデータのクオリティを確保するための機器校正や環境条件制御など、非常に泥臭い活動につきます。
データクオリティに対するある程度の補償は、マハラノビス距離のやりくりでできるのですが、なんだかんだ言って、やっぱり重要なのは「現場」ということですね。