燃圧が高いと噴射しなくなる??
こんばんは。専務の藤井です。
梅雨は毎日蒸し暑くて困りますね。
もうちょっとの辛抱です。
さて、先日ちょっと調べものでネットを徘徊していたら、ガソリンPFIインジェクターについて、間違った認識のアーティクルを見つけました。
それは、「燃圧が高いと噴射しない。」とのことで、「インジェクター故障と判断して新品交換した。」
というものでした。
これについて細かく説明するとPFIインジェクターの作動原理に遡るんですが、この現象は故障ではなくて「当たり前の現象」です。
もちろん程度問題で、どのくらいまで燃圧を上げたかにもよりますが、簡単に言えば、インジェクターが噴射するには内部のニードルが動く必要がありますが、規定以上の燃圧にした場合、燃圧による力でニードルが押さえつけられてしまい、動かなくなるため、噴射しなくなるということです。
当然ですが、PFIインジェクターには設計上許容できる燃圧範囲があります。
これは、強度的な許容範囲という以外にも、原理的に作動可能な許容範囲という意味もあり、それを逸脱した条件では、噴射する/しないは保証されず、個体ごとに「たまたま」噴射するものもあれば、噴射しないものもあるという状態に陥ります。
よって上記の例では、本来2.5barの燃圧で使用されるべきインジェクターを、確か5bar近くまで上げていましたが、この燃圧では噴射できなくなる個体があっただけのことで、故障ではありません。
要するに、設計上想定している以外の条件なので、動作しなくても当たり前ということです。
捨てちゃうなんて、もったいない。。。
なお、さらに突っ込むと、燃圧を上げれば上げるほど、いわゆるS-N線図(疲れ限度線図)的に考えたとき、インジェクターにかかるストレスは大きくなり、本来の疲労限度を越えるため、N=10^6に至らないうちに故障してしまう確率が跳ね上がります。
この場合、ほとんどのケースで樹脂接合部からの燃料漏れや先端からのリークが発生します。
なお、工学を修めた「エンジニア」なら常識ですが、この手のストレスの厄介なところは、ただの一瞬かけただけでも故障させてしまう可能性があるので、特に、ある程度使用された中古インジェクターに対して、闇雲に一瞬でも燃圧を上げること自体が危険な行為です。
なので上記の例では、ひょっとすると燃圧を上げて試しているうちに、本当に機械的に故障させてしまい、噴射はしないわ接合部からの燃料漏れが発生するわの状態にしていたのかも知れません。
とはいえ、モータースポーツなどで一時的なハイパフォーマンスを求める場合、燃圧を上げて使用することはよくある事なので、その場合は上記のリスクを認識して実施することが肝要ですね。
ちなみに弊社では、標準条件としては、燃圧に限らず、ソレノイド電流、印加電圧、温度等、全てインジェクター本来の許容範囲内での測定を徹底して実施していますが、お客様からご要望があった場合に限り、プロスペックレポートとして、ご指定の条件での測定も承っております。
とまぁ、ここまで書いておいてなんなのですが、そもそもPFIインジェクターの作動原理を知ることが先決ですし、そういうニッチなものを解説した資料が少ないので、夜なべして動画を作ってみました。
まずは、インジェクター内部の部品にかかる力のバランスで動作が成り立っている点を知っていただければと思います。
なお、燃圧が高い場合は、動画中のピンクの線で示した力と赤で示した力との差分が大きくなり、ソレノイドによる吸引力では力のバランスを逆転できなくなるため、上記のような現象が発生するというわけです。